「異世界がなくなると木、その地のコミュニティは滅びさる」と現代社会学で語られるとことですが、一千年以上の「時」を超える存在である仏像をつくりだすことは、そしてその仏像が納められる寺院の結界はまさに「この世の理(ことわり)」を超えたものといえます。長久手にはそうした「結界」がまだ数多くあり、それぞれの時代の仏師が創出した仏像が納められています。
そして現代の仏像を作られているのが江場琳觀仏師です。「江場仏像彫刻所」では、「仏像」と「空間」の<融合>を図るため、安置される寺院の堂内全体をも考え抜いた上で、ゆるぎない設計図のもと一体の仏像が創出されています。
長久手のこの地で、世代を超えて日々、仏像が彫られつづけています。先人が創出した粋や技術、姿勢を学び継承するなかで深く研鑽を重ね、最先端の創意工夫と「現代的解釈」は、まさに「現世と仏の世界の邂逅」と言えるでしょう。
「はすのうへ – II -」2022 高510 ×幅200 × 奥200mm 材質 桂(漆、金、プラチナ、アクリル絵の具)一部淡彩色仕上げ
「水面から伸びた一輪の蓮の花に、すっと菩薩が現れる。静謐なたたずまいと、この世の理(ことわり)を超えた浮遊感をまとって」
三体で計画された連作のうち二番目に制作された像で、現世と仏の世界の邂逅が表現されている。
琳觀仏師が長年取り組んできた代表的なモチーフである蓮の花と波紋を描く水面と、浮遊感をまとう天衣におおわれた飛鳥仏の百済観音へのオマージュがここに合一されている。
琳觀仏師の「山川草木悉皆成仏」の慈しみに溢れた眼差しが息づいている。
「はすのうえ」2021
「はすのうえ」2021
三体で計画された連作のうち最初に制作された。
波紋を描く水面から1本の蓮が天上に向かって伸びている。
茎は少ししなって観音菩薩が重力のない世界で浮遊している姿が緻密に高度に創出されている。
「一葉観音」平成17年(2005)檜(ヒノキ)木地仕上げ 250 × 440 × 330mm
「一葉観音」は、「三十三観音」の一尊。航行の安全や水難を防ぐとされる。
中国に渡航中の道元禅師を救ったとされる伝承に基づいています。台座は水鏡をあらわし波文様は蒔絵が施されています。
「江場仏像彫刻所」にて、江場琳観仏師に訊く
「江場仏像彫刻所」では、雛形の仏像をまず彫って考え抜いていきます。躰のそれぞれの部位の造りや、実際に人が3mの仁王像の前に立った時、像と自然と目が合うように首の曲げ具合も含め、この雛形で突き詰められていきます。
2005年「愛・地球博」にて仁王像を実演彫刻
2005年 長久手で開催された「愛・地球博 – 1000年スパンのものづくり〜仏像と森〜」にて、仁王像を彫る実演をした琳觀仏師。
来年3月より愛知万博20周年記念事業「愛・地球博20祭」が開催されます。遡る20年前、若き琳觀仏師が仁王像を実際に彫る臨場感あふれるイベントが開催されました。
次回レポートで、当時の様子を記録をご紹介致します。
如意輪観音 平成24年(2012) 檜 淡彩色截金. 840×630×540mm
「六観音」の一尊。彩色の色調や文様、截金に至るまで古典様式に留まらない創意工夫や現代的解釈が試みられている。檜の麗しい年輪が柔らかな温かみのある表情とものの見事に融合している様はあまりにも美しい。
片膝を立て腕が6本という多臂像のため、肩や腕に破綻をきたしやすい造形の像をいかに自然に見せられるかがテーマとされ彫像にあたったとのこと。
「球体仏」 寺院を小型化し身近に置く 仏壇は四角くなくてもよい!
「球体仏」のプロジェクトは、元はある寺院から「視覚の不自由な方に触っていただけるような、球体に収まった仏像を考案して欲しい」という依頼からから始まったとのことです。
その要望を受け意匠を勘案するうちに、球体は「寺院の堂宇」となり、そこに祀られた仏像のイメージへと合流していったとのこと。
琳觀仏師によれば、これこそが遠い昔に「厨子」が生み出され、そこからさらに「仏壇」へと展じていった発想の転換そのものと重なるものがあると。
「透かし紋様があしらわれた窓は、<平等院鳳凰堂の対岸から阿弥陀如来を拝む窓>を想起。
仏像の座る蓮台の内部には小さな空間が設けられ、胎内に納入品を込めることができる仕掛けが施されている。
銀座蔦屋書店(GINZA SIX)での江場琳觀大仏師の作品展開催 2021年
映画「ゴジラ -1.0」の山崎貴監督や、「シン・ゴジラ」や「進撃の巨人」の樋口真嗣監督、大女優が次々に来店し関心を向ける
「江場仏像彫刻所」内にある展示室にて
江場琳觀(りんかん)仏師
昭和48年愛知県に生まれる。
ー平成28年までの主な活動と業績の一部
平成4年(1992)京都の松久宗琳佛所に内弟子として入門
平成11年、宗教芸術院・本部講師 就任(〜平成13年)
平成13年(2001)、松久宗琳佛所より独立
平成14年、江場佛像彫刻所に加入。雅号を「琳觀」とする
平成15年、静岡・法多山尊永寺「弘法太子像」謹刻
平成16年 「江場琳黌・琳觀展を長久手・名都美術館にて開催
平成17年、大須観音・寶生院「不動明王像」謹刻。
平成18年、愛知・小松寺「韋駄天像」謹刻
平成20年 愛知・八事山興正寺 壁画「菩薩群像」制作
平成21年(2009)、愛知県美術館ギャラリーにて、「江場佛像彫刻所一門展」を開催
平成23年、岐阜県美濃賀茂市文化財「如来坐像」修復
平成24年、岡山県・岩倉寺「聖観音像」謹刻
平成26年(2014)、江場佛像彫刻所、所長就任。インド研修
平成27年、愛知・興正寺「弘法大師像・不動明王像・毘沙門天像」他、謹刻
平成28年(2016)、愛知・正林寺「大権修理菩薩像・達磨大師像」修復
北海道・大安寺「釈迦三尊像」謹刻
「大仏師」号を拝受(大安寺より)
「十一面観世音」平成7年(1995)
「十一面観世音」平成7年(1995) 檜 木地仕上げ 950×400×400mm
頭に十一の仏面を頂く観音。頂上に如来面、正面に菩薩面、左側に悪を懲らしめる瞋怒(しんぬ)面、後方には悪行に対して笑い声を上げている大笑面が配されている。
ベルリン東洋美術館蔵の「十一面観世音」の姿にヒントを得て彫像したとのことで、一般的に左右の手に持つ水瓶や数珠を持たないなんとも優美な立ち姿となっている。