長久手市内にはさまざまな農園がありますが、そのなかでもヒフミヨイ農園は、「自給」と農仲間に限定した生産を目的にした「自然農」を展開する農園として一陣の風を吹かせています。
地球温暖化や物価高騰、来るべき大震災から食べ物の「自給」の考えや重要度は間違いなく高まっていくでしょう。食料自給率が圧倒的に低い日本で食料をどう確保していくのか。
市内でも荒廃農地や耕作放棄地が増えている中、青柳努さんが主宰するヒフミヨイ農園の13年余の営みは、着実に一本の道標(みちしるべ)になろうとしています。土に触れるところから始めてみると何かがきっと変わりそうです。
岩作の北方、図書館通り沿いにあるヒフミヨイ農園による「自然農」を体現した場所の一つ。自給と農仲間のため多くの作物を栽培するために円形の作付けの土地としたという。「円形畝(うね)」である。
円形にすることによって周囲を効率的に水が循環するだけでなく、遊び心的な感性にも訴えかけられる。図書館通り沿いであってもこの独特の景観をともなった農園に気づく人は稀だという。
もともとこの田圃は、近所の稲作専業農家さんの土地で10年程に田圃の一部を引き継いで欲しいというお話があり青柳さんが受け継いだとのことです。無農薬で無化学肥料、肥料は少量のヌカや油カス、野菜クズや刈り取った雑草でつくった肥料を用いているとのこと。
この田圃の右端には細長い畝があり、苗代が作られています。苗代とはお米の種(米籾)を発芽させる苗にするためのお布団のような場所とのこと(「宙 SORA」4月号より。「宙 」は本レポートの最終に紹介)。
青柳さんと農仲間たちとの活動(6月15日撮影)
円形畝のその後(6月25日撮影) 円形畝の中央部分にはなんとトウモロコシ。すぐ周りに里芋。トウモロコシや里芋ほか十種の野菜を実験的に植えられています。
農園の名称「ヒフミヨイ」とは?! 青柳努さんの心の内へ
「ヒフミヨイ」とは一風変わった名前の農園ですよね。青柳さんに伺うと青柳さん個人の心のうちの正式名称は「ヒフミヨイムナヤコト農園」とのこと。まず「ヒフミヨイ」とは神代文字で「ヒ~フ~ミ~ヨ~イ」、つまり「1、2、3、4、5」です。そして次のような祝詞になっています。「ひふみよいむなやこともちろらねしきるゆゐつわぬそをたはくめかうおえにさりへてのますあせゑほれけ」
日本語のはじまりの「ヒ=1」はとても重要で、「日」であり、「火」であり、太陽の「陽」であり、「妃」でもあって、自然の中にあって何事がこれから起こっていく、成していく始まりです。
「ヒ」の次に「~フ~ミ~ヨ~イ」とゆっくりと数え上げ事を成していく。青柳さんは農園の名称を「ヒフミヨイ」にすることによって、書き記したり口にしたりすることで、日本語の言霊としての「音声」がもつ摩訶不思議な作用を身を持って知ってみたいと語ります。
元来、大地・土地は個人の所有するところのものでなかったはず。人間が生物や無生物を上からコントロールして生産力を持たせることに青柳さんはかねてからどうも違和感を抱いてしまうと語ります。
青柳さんの心の内では、人間の体とそこに暮らす土地は一体であった「身土不二(しんどふじ)」の感覚が蘇り、自ら耕し手植えし造った「日風水酔(ヒフミヨイ)」を毎晩体内に流し込んで、神代の世と交信しているのではと思わずにおられません(^ ^)。
無農薬の酒米でつくった日本酒「日風水酔(ヒフミヨイ)」
「日風水酔」の「酒粕」(4月13日 アルキペラゴでの「種祭」にて)
無農薬の酒米でつくった日本酒「日風水酔(ヒフミヨイ)」
「日風水酔(ヒフミヨイ)」は無農薬の酒米で作った日本酒。無ろ過生原酒。お酒造りは2020年から(丸一酒造協力。 2024年より新酒は岐阜県八百津町の花盛酒造による醸造)。
「毎日飲むお酒も自分たちで作ったお米からできていたらいいなぁ。」という思いからはじまったという。農薬・化学肥料・動物由来の肥料などを使わず、手植えにこだわった酒米で造られている。
自然農法による何十種類もの野菜も自給している
田圃から歩いて数分のところにある青柳さんの畑。自然農法が実践されている。当初は野菜の栽培で後に稲作を始められた。
この一画だけでも、ジャガイモや玉葱・人参、えんどう豆から、パセリやニンニクなど何十種類もの野菜がつくられている。あえて耕すことはほとんでないという。自給のための耕作地である。
種が発芽しやすいように土の条件は整えるが、こぼれ種が自然に発芽するままにしてあり、一般的な耕地や普通畑しか知らないとほぼ理解不能な畑に映るかもしれない。見栄えの良い観光農業からすれば理解はまずされないとのこと。
「虫や雑草をむやみに排除せず、反対にそれらを含む自然天然の現象を作物の成長促進に上手く利用する」という究極的な「自然農法」とはこのことかと、驚きと納得が交互にやってくる。
現在、長久手市内を中心に16ヶ所の田圃・耕作地(東郷など)。ヒフミヨイ農園はじんわりと広がりを見せています。「自然農」の活動と暮らしは、「身土不二」の考えで貫かれています。
古代種の餅米を植える
こちらの畑では、水田ではなく畑で栽培される陸糖(りくとう)の「苗(餅米)」と古代種の餅米である「赤米」と「黒米」の三種の苗がこれから植えられます。(5月30日撮影)
一番多い時で試みで10種類ほどのお米を育てていたとのこと。現在はその中から長久手の地で一番育てやすいお米を選んでいるとのこと。
手植えで植えられてから約3週間。少しづつ苗が成長しています。
『宙 SORA』 発行人:青柳恵美 650部 4月号のトップページは「ヒフミヨイ農園」です。
また青柳努さんは、音楽ユニットEttでも長年活躍し、長久手のご当地ソング「愛の古戦場」などを作詞作曲するシンガーソングライターでもある。