2005年アメリカ南部に上陸し巨大な被害をもたらしたハリケーン・カトリーナの発生を受けて、翌年日本でも「スーパー伊勢湾台風」という「仮想台風」の概念が提示されてから約20年後、これまでの巨大台風の概念とは異なる「台風10号」が襲来している。
「スーパー伊勢湾台風」は、「伊勢湾台風」よりも大規模な1934年の「室戸台風」(上陸時の中心気圧912ヘクトパスカル)を想定して、2006年に「中部地方の天変地異を考える会」(国土交通省中部地方整備局河川部の有識者検討会にて)において提示されたものだ。
報道されている通り現時点で台風10号の中心気圧は935ヘクトパスカル、明日925ヘクトパスカルになると予測されていている。雨量は場所によってトータルで1,000ミリバールを超え、滞留せず一気に北上していった「伊勢湾台風」を有に上回る。
地球温暖化に伴って発生する「スーパー台風」と発生位置について少しチェックしてみたい。
西日本は「スーパー台風」がそのまま上陸すると予測されている
参照:「災害列島 命を守る情報サイト」より
名古屋大学・横浜国立大学の坪木和久教授(名古屋大学宇宙地球環境研究所)が、今世紀の温暖化、気候変動から推定していたスーパー台風の「北限」をシミュレーションを元に作成したマップ。「スーパー台風」の研究は坪木教授のもと10数年以上前から行われている。
小笠原諸島から奄美大島近海のラインまでで、発生したスーパー台風はそのラインより北側にくると勢力を落としていったが、坪木教授の趣味レーションでは、今世紀後半には、日本列等の西半分で超巨大なスーパー台風がそのまま勢力を落とすことなく襲来することになるという。それが上の地図である。
ちょうど今回の台風10号が九州で長く停滞し東へ移動するそのラインが、坪木教授がかつて指し示したラインと近似している。
21世紀後半の予測の一端が早くも現実化しているのか、変異的な巨大台風なのか、、?
坪木教授は、台風10号について「長い研究の中でも過去にないケース。これほど停滞する台風はほとんどない珍しい台風である。ある意味、最悪なケースになった」と報道番組内で語っています。
シミュレーションされた「スーパー台風」の”北限”に沿って東進する台風10号
伊勢湾台風は、上陸直前前の3日間、中心気圧910ph以下の”スーパー台風”だった
1959年伊勢湾台風の経路。
紀伊半島に上陸するまで毎時45kmで、上陸後は速度は加速し毎時65kmとなって本州をあっという間に抜けていった。
坪木教授によると、「伊勢湾台風」も上陸直前の3日間は、中心気圧890へクトパスカル台で(上陸前日は900~910ph代)、勢力的には今日にいう「スーパー台風」だったといいます。
「スーパー伊勢湾台風」という「仮想台風」の呼称は、「伊勢湾台風」よりも超大型だった1934年の「室戸台風」(上陸時の中心気圧912ヘクトパスカル。当時の世界最低気圧を更新)を想定し、2006年に「中部地方の天変地異を考える会」において提示されたといいます。
画像元:水源地ネット
防災講演会あいち「激甚化する気象の実態」 坪木和久教授講演 2022年12月11日 鯱城ホールでの講演内容
講演は、寺田寅彦氏の『天災と国防』(1934)の紹介から始まっています。「ある年に災禍が重畳するのは、「自然変異」(自然のゆらぎ)である」、、、これほど万人がきれいに忘れがちなのことはまれである」寺田寅彦
台風の目の中に入って観測した初めての研究者
日本で台風の飛行機観測を始めたのが名古屋大学・横浜国立大学の坪木和久教授。以前(2022年)、NHKサイエンスゼロの番組で偶然目にしたのが坪木和久教授率いる名大チームの台風の「飛行機観測」の様子だった。最初の「飛行機観測」は2016年とのこと。
世界中の研究者が注目している西太平洋の台風
今回の台風報道では、「欧州の進路予想では」とか「アメリカの進路予想では」といった欧米のシミュレーション予想がしばしば登場した。実際には、台湾、中国、韓国はじめアジアや世界中の多くの台風研究者が、西太平洋で発生する巨大台風に注目し研究しているとのことです。
アメリカの予報は、アメリカ海洋大気庁(NOAA)、米軍合同台風警報センター(JTWC)による。今回の台風10号に関する予報を公開中。一般の人もアクセス可能
欧州の予報は、欧州中期予報センター(ECMWF)モデル 極東域
海外では、台風10号は、Tyhoon Shanshan(珊珊)と呼ばれている
上に掲載のYoutubeは韓国メディア。韓国のみならずアジアのどの国でも、アメリカのTVニュースやヨーロッパでもどこでも台風10号ではなく「Tyhoon Shanshan」(珊珊:発音はシャンシャンではなく、サンサン)で統一。Shanshanは、香港の女の子の名前とのこと。
アジアで統一された台風の名前の付け方
アジアの南シナ海で発生する台風の呼び名は、2000年に14カ国が加盟する台風委員会で決定されています。
加盟国は、日本、中国、香港、韓国、北挑戦、米国、フィリピン、インド、タイ、ベトナム、マレーシア、ラオス、マカオ、カンボジア、ミクロネシア、
「台風のアジア名と意味」は気象庁のサイトで確認できます。
今回の巨大台風10号は、南シナ海で発生しているので慣例に則って加盟国はどこでも「Tyhoon Shanshan」と呼んでいます。台風10号の次に南シナ海で発生した台風の名前は順番なのですでに決定していて日本が付けた「Yagi(山羊)」になっています。すでに「Yagi」は発生しているかもしれません。
加盟国が付けた台風名は全部で140個あり、順番に名付けられて行きます。140までいったらまた最初の呼び名に戻ってまた始まります。
日本が付けた名前は、以下です。
「Koinu(子犬)」『Yagi(山羊)」「Usagi(うさぎ)」
「Kajiki(魚)」「Koto(琴)」「Kujira(クジラ)」「Koguma(小熊)」
「Tokei(時計)」「Tokage(トカゲ)」「Yamaneko(ヤマネコ)」
発生順なので、今回の台風10号がたまたま「Usagi」とか「Tokage」になることもあります。ポカンとなるばかりの名前です。
こちらはYoutubeはインドのメディア。発音はサンサンでなく、シャンシャンに聞こえる。
「NHK World JAPAN」は、NHKが世界に発信しているニュースですが、アジアの台風委員会で決定しているので当然、台風10号ではなく「Tyhoon Shanshan」です。台風委員会に加盟していないヨーロッパ諸国のメディアでも台風委員会の名付けを採用しているので、今回の台風10号はすべて「Tyhoon Shanshan」になっています。「NHK World JAPAN」のYoutubeで貼り付けることができないので直接Youtubeなどでご覧になってください。
台風の呼び名 日本だけ異なるガラパゴス化がここでも
これだけ台風や地震など天変地異が頻繁に起こり始めている時代に、海外の人とコミュニケーションを取るとき不都合が生じるのではないかと思ってしまいます。
前例主義がつよい日本ならではなのでしょうか。台風は日本にだけくるわけではなく、巨大台風は世界の経済に影響を与えるので、アジアで皆で決めたことにそろそろ則った方がよいのではと思います。巨大台風の数が多くなってくると何年の何号だったかもはや覚えられなくなってないでしょうか。平成30年、近畿地方を襲って大きな被害を出した巨大台風は、台風21号でした。
1959年の「台風15号」は、後に「伊勢湾台風」と呼ばれるようになりました。超巨大台風は襲来した地域の名前を元に付けられるのが日本ならではの名付けの方法になっています。これが日本ならではの”自然”の名前の付け方であるので、理解できる部分でもあります。
「中部日本新聞 夕刊」(昭和34年 – 1959年9月26日)