現在、長久手市・杁ヶ池公園駅近くの「名都美術館」で日本画家・堀文子氏の展覧会「旅する堀文子 スケッチに刻まれた人生」展が開かれています。”花の画家”として広く愛されている堀文子氏没後5周年企画の第二弾です。
第Ⅰ期の会期は残すところあと2週間程です。”花の画家”として人気の高い堀文子氏ですが、晩年まで世界中を「旅」する中で、探究心と自然への畏敬、生命の神秘への眼差しは生きる姿として一貫していました。
堀文子氏と長久手の名都美術館とのつながりは長く深く、名都美術館での最初の展覧会は1994年、ちょうど30年前となります。また500点以上と日本で最も多く堀文子氏のスケッチを所蔵している美術館でもあります。本画も愛知県下で一番多く、国内でも有数の所蔵を誇っています。
今回、名都美術館の学芸課長の鬼頭美奈子さんに堀文子氏の絵画と生き方の魅力を伺いました。
展示の巡る「旅」というキーワードに導かれ、「命」「自然」「人生」とさまざまに深く感じ取れる味わい深い展覧会になっています。
*尚、画像データ(一部除く)は、堀文子展覧会「旅する堀文子」第Ⅱ期 終了時の9月29日までの掲載となります。
堀文子展覧会「旅する堀文子 スケッチに刻まれた人生」のスケジュール
第Ⅰ期 2024年6月25日(火) ~ 2024年8月4日(日)
第Ⅱ期 2024年8月23日(金) ~ 2024年9月29日(日)
館内入ってすぐのところにある中庭の石庭。美術鑑賞の前に心が自然と洗われます。
名都美術館の学芸課長・鬼頭美奈子さんに今回の展覧会についてお話しを伺いました。
学芸員 鬼頭さんによる展覧会案内
「当館は堀文子のスケッチを500点以上所蔵していますが、今回没後5年という周年でそのスケッチを中心に、これまでなかなかまとめて紹介する機会がなかったスケッチを、所蔵する本画を織り交ぜながらロングランでご紹介致します。
第Ⅰ期(~ 2024年8月4日まで) では、「花」のスケッチをたくさんご紹介致します。その隣に展示しました本画作品とスケッチとを見比べながら鑑賞していただけます。
スケッチは「植物画」といってもよいほどで、本画を完成するためにスケッチがどのように活かされたのかを間近に見ることができる展示になっています」学芸員 鬼頭美奈子
展示は「花を巡る旅」からはじまります。
父のこと、夫とのこと、思い出を語るとき、心の風景の中に必ず花がでてきます。その一つが「牡丹」でした。
母と巡った旅先で目にした「みなづき」の花は、60年の時を経て再び同地で「みなづき」と再会したことを綴っています。
各所に添えられた展示案内文が展示の流れを整えてくれています。
館内を奥へと歩を進めると、日本画・美人画の大きな掛け軸のある艶やかな空間へ。
堀文子氏がまだ女子美在学中だった時に感銘を受けた作品がありました。それが小倉遊亀(ゆき)氏の『浴女』でした。この空間は、堀文子氏を巡る3人の女性を巡るストーリーと作品で展示構成されています。
日本画家・上村松園の気品あふれる美人画が5幅、併せて展示されています。日本画に独自の境地を開いた上村松園の美人画は名都美術館の所蔵品で、展覧会を多面的で奥行きのある展示構成としています。
女性が社会で生きるにはあまりに厳しい時代、迎合することのないその独自の絵画世界を描き出し、堀文子氏34歳の時の昭和27年(1952年)、上村松園賞を受賞しています。
黒柳徹子さんの番組「徹子の部屋」の壁に飾られてある「アフガンの王女」のこと
展示の所々に「文子の言葉」が添えられています。堀文子自身もトマトや茄子など夏野菜の苗を買ってきては独自にやってみたときのことがスケッチとともに描かれています。「自分の住む土地で育ったものを食べるのが生物の掟だと考え庭での野菜作りを計画」したようです。
長久手市内でも自分の庭や敷地だったり、皆で作業する一区画の農園だったり様々に野菜づくりを試み楽しんでいる市民が大勢いて、きっと堀文子氏と同じように野菜そのものがずっと身近に感じられるようになっていることでしょう。
スケッチされたのは「冬の越前蟹」。堀文子氏は、“花の画家”として知られ多くの人々に愛され続けていますが、モチーフも画風も長年にわたってじつに様々に変化し続けていきます。
今回の第Ⅰ期の展覧会でも、大磯、軽井沢からイタリアのトスカーナ地方にアトリエを構えた時のものから、イベリア半島南米やヒマラヤへ取材したものまだ多岐にわたっていますが、そのすべてにおいて自然への畏敬と生命の神秘への眼差し、好奇心と探究心が一貫していることが伝わってきます。
上映されている映像は、2012年に名都美術館で開催された「掘文子展」の際に制作されたもの。
堀文子氏が来館された時の様子など貴重な映像を観ることができます。
美術館の入口の左手から奥の駐車場へと通ずる路地に植えられた「ホルトの木」。再開発に伴い樹齢300年以上ともいわれたホルトの木の伐採計画に反対し、堀文子氏は隣家の土地を買い取って伐採から救ったといいます。堀文子氏のアトリエの庭からその苗木が移植され、名都美術館の地で大切に育てられています。
👉NPO法人大磯ガイド協会の「大磯まち歩き」サイトから、堀文子邸にある樹齢300余年のホルトノキを見ることができます。
大磯には、小倉遊亀、加山又造、安田靫彦ら多くの画家たちのアトリエや邸宅があることでも知られています。
堀文子氏のアトリエを中心にした「堀文子と大磯ゆかりの日本画家たちを巡る」コース(3kmで約2.5時間)もあったりします。
機会があれば一度訪れてみたいところですね。
「ホルトの木」の命名は平賀源内。和名は「ポルトガルの木」。オリーブに似た果実をつけます。街路樹や庭木としても用いられることも多くなった樹木に。
大磯や軽井沢、そしてイタリアのフィレンツェのアトリエなどで描かれた作品や数多くのスケッチが長久手の地に集っています。「自然の叡智」を理念にした「愛・地球博」が開催された地としてとても響き合うものがあり第Ⅱ期も楽しみです。