江戸時代から明治の世に時代が移り変わった時、長久手に出現した「べらぼう」な若者! それが戸田鉷四郎(きょうしろう)だった。
『長久手町史 – 資料篇八 近・現代』(平成6年発行)の冒頭になんと60頁を割いて掲載されたのは、戸田鉷四郎が綴った旅日記『北海道往復旅行日記』だった。けれども当時の文体ということもありもはや古文書の様で何が記されているか伝わりずらい
長久手市内の理系の大手研究所に勤務しながら歴史伝承学研究所をたち上げた町田悟氏が、『北海道往復旅行日記』を現代語訳。明治初期に長久手にこんな仰天な旅をした若者がいたことをぜひ知ってもらいたいと今回、原本を直接見させて頂き、戸田鉷四郎氏の筆豆な記録と原本ならではの挿絵の味わいに共振しました
長久手の近・現代史はじつは興味深い。『北海道往復旅行日記』はどんな内容なのか。ぜひ町田悟氏による現代語訳に接してみてはいかがでしょう
戸田鉷四郎氏が著した『北海道往復旅行日記』(明治18年、半年かけた大旅行だった)の原本を手に、その類い稀な旅日記のことを説明してくれた町田悟氏
町田氏は、長久手は「小牧・長久手の戦い」があまりにも有名で、古戦場や著名な武将たちにどうしても注目されるが故、逆に近・現代の長久手の非凡で傑出した人物たちが話題にのぼりずらくなっている気がする、と語ります。戸田鉷四郎氏の原本を初めて見た時、長久手にこんな人物がいたのかと驚いた。長久手の皆さんにもぜひ知って欲しい人物です
明治18年、1885年に半年かけて旅をした『北海道往復旅行日記』の原本。この原本は現在、戸田鉷四郎氏の子孫の方から町田氏に保管を依頼されています
本に纏めた明治18年は、まだ長久手は幾つかの村に分かれていた時代
戸田鉷四郎氏は現在の大草の出身で、当時は北熊村と大草村が合併した後の熊張村に生まれています
戸田鉷四郎氏は尾張藩士である平川家の四男として生まれ、明治維新後に熊張村(長久手)の戸田家へ養子に入っています
明治時代初期、戸田鉷四郎氏が日本を旅したわずか8年前の1878年、イギリス人の女性旅行家イザベラ・バードが来日し東京から北海道まで陸路旅しています。その旅が旅行記として1880年に出版されています
町田悟氏は、『北海道往復旅行日記』は、「郷土史料の枠を越え、明治版の『江戸参府旅行日記』(ケンペル、17世紀)やシーボルトの『江戸参府紀行 19世紀)に匹敵する貴重な史料では」と指摘しています
また明治時代初期となると、イギリス人の女性旅行家イザベラ・バードが来日し東京から北海道までを1878年に陸路で旅しており、その旅行記がイギリスで1880年に出版され大いに注目を浴びた時期に相当します
戸田鉷四郎氏が長久手から名古屋、東海道を経て横浜・東京へと辿り、さらに陸路、北海道に一人旅をしたのはイザベラ・バードが東京〜北海道と日本を旅したわずか8年後の1885年(明治18年)のことでした
『北海道往復旅行日記』の現代語訳版『明治のワンダージャーニー : 北海道往復旅行日記の世界』町田悟著 2024
明治初期、三度笠を被り草鞋行脚で、故郷・長久手から東海道〜東京〜北海道へと旅立った長久手の若干22歳の若者、それが戸田鉷四郎。
当時、北海道には未だ村が一村も無い時代、あらためてワンダーな旅だったことが旅日記から伝わってきます
町田悟氏は、明治初期の旧書体の漢字とカタカナの文章を現代語訳し、伝説の旅日記を平成の世に蘇らせました
確認したところ、長久手中央図書館にも所蔵されています。Amazonでも購入できます
町田悟氏連絡先:
nagadenlab@gmail.com (ながくて伝承ラボ)
清水港からの景
戸田鉷四郎氏はこの日記の特徴として江戸時代の情緒と近代化が同居しはじめた各地の様子があらゆる分野にわたって記され描かれたと語ります
江ノ島の景
小樽港の海岸 汽車のトンネルの景
なぜ戸田鉷四郎が北海道を目指したのか。それは鉷四郎のすぐ上の兄の平川勇記(鍋三郎)が、20歳で同志と共に徳川開墾地となった八雲の地に移住していたためだった
戸田鉷四郎が目指した北海道・八雲の場所がこちら。今日では函館からJR函館本線の特急で約1時間で到着
八雲村より札幌県への往復が道中明細地図として原本に挿し込まれています
幕末から明治初期にかけての北海道(蝦夷)道中日記は以下の様に14程纏められているとのこと
その全てが蝦夷地調査・現地調査のため開拓御用係や藩から派遣された藩士が公的な報告書として土地の広さ、地質、地形、戸数など現地情報を客観的に纏めているものです。戸田鉷四郎は元氏族ではありましたが、後ろ盾がある訳なく一般人の個人的な旅の日記で、書名にも『北海道往復旅行日記』と「旅行日記」であることが明言されています。故に北海道の自然景観や海辺の美しさを挿絵にして残すこともできた訳です
『蝦夷日誌』(1845年)松浦武四郎 蝦夷開拓御用係/ 蝦夷地調査
『蝦夷地道中日記』(1860年)松浦千代兵衛 庄内藩 / 現地調査
『北行日記』(1870年)宮島幹 米沢藩士 / 現地調査
『北海日記』(1874年)林顕三 旧金沢藩士 / 現地調査
『北海道回覧紀行』(1886年)栃内元吉 北海道駐屯兵・大尉 / 現地調査 他
長久手郷土史研究会・会報「胡牀石」
「胡牀石」誌上にて、「翻刻『北海道往復旅行日記』町田悟」が連載されています
戸田鉷四郎『北海道往復旅行日記』は、『長久手町史 – 資料篇八 近・現代』(平成6年発行 発行:長久手町役場 /編集:長久手町史編纂委員会)にも巻頭になんと60頁を要して全頁が2段組で紹介されています
挿絵はモノクロですが町田悟著の『明治のワンダージャーニー』では挿絵はオールカラーで原本のタッチと雰囲気を再現しています。絵も達者であった戸田氏自身が描いた挿絵は、旅行日記の体温を伝えてくれます