トヨタ博物館とフランスのガラス工芸作家のルネ・ラリック。一見結びつかないのですが、一体どんな関係があるのでしょう。それは現代のクルマからはほぼ見なくなっていますが、ボンネットの先端に取り付けられるカーマスコットこそがその答えです。
美しく華やかな美術品とでも言える作品は、フランスのガラス工芸作家ルネ・ラリック(1860-1945)が手がけたカーマスコット群です。
ルネ・ラリックは、19世紀末のアール・ヌーヴォー期から20世紀初頭のアールデコ期にかけ活躍した世界的なガラス工芸作家でありジュエリーアーティストです。
なんとトヨタ博物館には、ラリックが製作したカーマスコット29種類の全てが揃っています。
全種類が一度に見られるのは、日本でも世界でもここだけかも知れません。
ルネ・ラリックは、1900年開催のパリ万博で優れたジュエリー作家として注目されました。なぜラリックが注目されたのか。
ラリックが発想しつくり出したのは、それまでエミール・ガレやドーム兄弟による複雑で華やかなアール・ヌーヴォースタイルではなく、エレガントでありつつモダンでシンプルなものだったのです。
それが「アールデコ」を先駆ける意匠となったのでした。そして芸術性と量産を両立させるため精巧な鋳型が用いられていきました。
パリ万博で、ラリックの前衛的デザインは、アール・ヌーヴォーのジュエリー部門で、グランプリを獲得。世界のトップアーティストに上りつめました。
その10年後、ラリックは貴族向けの1点ものの高級ジュエリー制作をやめ、比較的安価で比較的多くの人に購入してもらえる量産しやすいガラス工芸の道へ突き進んでいきます。
マスコットの台座には豆電球を仕こませ、下から光を当て内側から照らし出すこともできました。夜間にはどれほど美しかったことでしょう。また色のついたディスクをガラスの間に挟んで色を変えることもできました。
ルネ・ラリックはガラス工芸でさまざまなものをつくりあげています。代表的なものは、香水瓶、照明器具、化粧道具、室内装飾です。
ラリックのガラス工芸品は、クルマのマスコットの様に、新らしい時代の夜明け、そして20世紀の都市の新しいライフスタイルを予感させていきました。