「完成、合戦図模写」展示へ 正面は法隆寺金堂壁画模写展示館
「法隆寺金堂壁画」(12壁+飛天図20壁)の模写事業は、1974年から1992年にかけた壮大な模写事業で、愛知県立芸術大学による最初の模写事業でした。以降、約半世紀にわたって多くの国宝・重要文化財が対象となっています
今回の長篠と長久手合戦図屏風の復元模写事業はその延長線上にある制作事業です
完成した「長久手合戦図屏風模写」(左) 右側の一隻は「長篠合戦図屏風」
共に徳川家康の戦勝を描いたものであり、原本は徳川美術館所蔵で、尾張徳川家伝来のもの
今回の合戦図屏風模写では、長久手合戦と長篠合戦が平行して制作された
2つの屏風は左右対をなす「六曲一双」となっている
精巧で丹念な模写事業を指揮した愛知県立芸術大学の岡田眞治教授
描かれた風景は現在の長久手古戦場公演を中心とした戦さ場一帯の地形に相応している
合戦直前、家康の本陣があった御旗山や家康の金地に日の丸扇の馬印の位置、また池田勝入塚と庄九郎塚、森長可の武蔵塚と各武将が討たれた位置もぴったり合致している
岡田教授のお住まいもこの風景の中の土地にあり、合戦図屏風との時を超えた繋がりがこの事業を導いたのかも知れません
完成披露会期中、様々なメディア、関係者、市民の皆さんが訪れました
工事現場の「仮囲い」が取り除けられ、外観がいよいよあらわになったガイダンス施設(2026年4月オープンへ)
ここに完成した「合戦図屏風」が展示される
今回の展示では、制作過程についても紹介されています。上図は線描で描かれた人物などを写しとる作業で、原寸大の写真資料の上に半透のトレース用フィルムを重ねて墨で線を描き写していく工程です。原本の細部に至る線の正確さが要求されるため、写真資料の下からバックライトで照らしだして視認しやすくする工夫がなされています
表層に見える色は、下層の色と重ねられた結果生まれた色や、墨の上に<重色>されたところもあるとのことです
原本の屏風は、18世紀から19世紀ごろに制作されたもので、制作の準備として紙づくりからはじまります。雁皮(がんぴ)と楮(こうぞ)の混合紙は、原本に近い風合いと筆致が再現できる配合比で慎重に作られました。紙作りは成子紙工房(滋賀県大津市)に依頼されています
また彩色は原本に肉薄すべく、適切な染料や顔料が用いられました。作品の経年変化から生じる魅力を毀損しないため、特に黒色変化しやすい「銀」は慎重に用いられたといいます
2023年5月当時の模写作業
草や松、苔、ツツジや柳などの草木はトレースを用いた臨写が困難なため細心の注意と技術で描き写されていきます
極めて高度な筆致力が要求されます
屏風の復元模写作業においては、愛知県立芸術大学の卒業生ら7人があたりました
屏風に貼り込まれている貼札。原本の貼札サイズと同サイズに切断された状態のもの
貼札には武将の名前以外に、合戦での功績や引き連れた兵の数、後の身分などが記されているものがあります。雁皮紙に金や銀が専用水で貼られます
展示室には、模写作業工程がパネル仕立てで説明書きがされていてより深く模写作業について把握することができます
また多くの市民が模写事業関係者に質問し模写作業への理解を深めていました
愛知県立芸術大学による模写事業
遡る1974年の「法隆寺金堂壁画(12壁+飛天図20壁)の模写から(〜1992)始まり、約半世紀にわたり多くの国宝・重要文化財が対象となりました
国宝「高松塚古墳壁画」文化庁
国宝「伝源頼朝像」や「釈迦如来像」神護寺
国宝「倶舎曼荼羅図」東大寺
国宝「十一面観世音像」奈良国立博物館
国宝「両界曼荼羅図」教王護国寺
国宝「仏涅槃図」高野山金剛峯寺 他
国宝を多く含む貴重な作品の模写事業には、文化財を将来へ継承する役割に併せ、劣化や毀損が危惧される作品の制作時の材料・技術・技法を多角的に調査研究ができ、人材の育成や技術の継承などが期待されています
次回予定されている復元模写作品は、曾我蕭白作の「群仙図屏風」(重文)